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「楠原さんっ……ありがとうっ」
「う、うん。はい」
困惑顔の彼女を置いて、一歩前に出た。
足が軽い。
今すぐ束元君の元へ飛んで行けるんじゃないかってくらい。
「……じゃあ、教室で……っ」
振り向きざまに楠原さんに声を掛けると、彼女は何だか嬉しそうに手を挙げて見送ってくれた。
廊下の角を曲がって私の前から姿を消した束元君を追って、駆け出す。
今すぐ彼に伝えたい事があるから。
胸の決心が温かい内に、伝えたいの。
バタバタと足音が冷たい廊下を跳ねあげる。
吐き出した息が白く視界に立ち込めるけれど、合わせた焦点に曇りはない。
生まれて初めての、不思議な感覚。
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