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見台の前に立っていた。
両手にいっぱいの黒い音符を持ったまま、辺りを見回す。
とても静かだ。
目の前の見台には、いつの間にか紙が置かれていた。
何も書かれていない真っ白な紙だ。
ぴくりとも動かない海を見て、綺麗な青の中に混じって遊ぶシロイルカを想像した。
手の上の音符にそっと息を吹きかけた。
すると、ふわっと浮き上がった音符たちが紙の中へするりと溶け込んでいき、譜面が完成した瞬間、大きなざわめきが聞こえた。
風になびく紙の音、樹木の葉が揺れる音、そして、海の波の音。
ポケットから指揮棒を取り出し、ひとつ深呼吸をしてから構えた。
遠くから、心地の良い歌声が聞こえる。
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