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『マリア』という女性は、この店で働くトップモデル。
そしてこの店の業種は、巷では『風俗』と呼ばれるものだった。
抵抗がなかった訳じゃない。
だけどこの店で働こうと決めたのは、『マリア』を始めとする先輩たちの人柄の良さ。
そして男性従業員も彼女たちと同様、とても親切に私の事を扱ってくれたからだった。
この店No.1の人気嬢である『マリア』。
いつしか彼女は、私の憧れの存在となっていた。
そして私は彼女の事を『姉さん』と呼んで慕い、仕事だけじゃなくプライベートでも行動を共にするようになった。
だけど・・・。
―――
「姉さん、ごめん。
私、地元に帰ろうと思うんだ。」
「円佳、それ本気なの!?
あんたまでいなくなったら、この店は・・・!!」
「わかってる・・・。
でも、家族をほっとく訳にはいかないからさ・・・。」
―――
突如現れた『ラッキースター』。
あれが北極に突っ込んでから、世間の様子はがらりと変わってしまった。
地球の滅亡を恐れて自暴自棄になり、犯罪やインモラルな出来事が多発し始める。
そしてその影響は、故郷にいる私の家族にまで飛び火してしまった。
―――
「お姉ちゃん・・・、お父さんとお母さんが・・・っ!!」
「芹佳・・・、一体どうしたの?」
「学校から帰ったら、動かなくなってて・・・。
良く見たら、血がいっぱい流れてて・・・ひっく・・・。」
―――
突然の電話は、14歳年下の妹からだった。
小さな工務店を経営していた私の両親。
両親の仲はとても良く、会社の経営も上り調子だった。
しかし『ラッキースター』が現れてから、何かが変わった。
未来がないとわかれば、誰も新たな家など建てない。
それによって、会社の経営もどんどん苦しくなる事は必至だった。
真面目だったはずの父は自暴自棄になり、酒やギャンブルに溺れ、母に暴力を振るうようになった。
そして長年父を支え続けていたはずの母も、暴力を振るうようになった父を見兼ね、ちょくちょく家を空けるようになってしまった。
そして、その結果がこれ・・・。
小学生の幼い妹を残して、私の両親は無理心中を図った。
母が父を包丁で刺殺し、そのまま母も同じ包丁で自分の胸を刺したのだ。
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