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―――
「・・・って訳なのよ。
ってか、ちゃんと聞いてた?織田さん・・・。」
居酒屋で向かい合ってビールを飲みながら、ぽかんとした表情を浮かべる彼に問い掛ける。
「あ、ああ・・・。
聞いてたけど、円佳って随分波乱万丈な人生を送ってきたんだね。」
目尻の下がった笑顔を見せるこの男性は、私が勤めるスナックの常連である『織田さん』。
地元に本社のあるデザイン会社を経営する、35歳の若社長だ。
彼とは店で知り合ってから、週に1、2回は同伴出勤する。
イケメンかつエリートの彼が独身なのが不思議だけど、これだけスナック通いが頻繁だという事は、恐らく恋愛にも縁遠いと見た。
「まぁね・・・。
でも、私が風俗やってた事は、ママや他のお客さんには内緒ね。
・・・織田さんだから話そうと思ったんだよ、私・・・。」
こうやって織田さんと同伴するのも今日が最後。
だって明日には、この地球がなくなってしまうのだから・・・。
これで最後。
そう思って私は、織田さんに自分の過去を洗い浚い話した。
だけど、誰にでもこんな事を話す訳じゃない。
両親を亡くし、この世に絶望していた私。
そんな状況下での織田さんとの出会いは、私に一筋の光を齎してくれた。
出会った当初は『従業員』と『客』。
だけど本当は、少しだけその枠から外れてみたかった。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。」
ビールのジョッキを手に持ち、グビグビと喉に流し込む織田さん。
そんな彼を、怪訝そうに見つめる私がいた。
「ちょっと、織田さん!
ここであまり飲んじゃダメ!!
お店に着いてから、あまり飲めなくなっちゃうでしょ!?」
本当は、そんな事どうだっていい。
ただ、自分の過去を暴露した私に、もう少し気の利いた反応を示して欲しかったから・・・。
彼にとっての私は、いつも行くスナックの『ホステス』でしかない。
だけど、私は・・・。
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