同伴デート

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思わず彼に駆け寄り、俯瞰で彼の顔を見つめる。 背の高い織田さんの前に立つと、私は彼の体にすっぽりと収まってしまう程小さいのだ。 そして、その瞬間・・・。 ゆっくりと背中に回された大きな腕。 そしてそのまま、彼の体に引き寄せられる。 「織田さん・・・、ちょっと・・・!!」 唐突すぎて、頭の回転が付いていかない。 だけど今の私は、煌びやかなイルミネーションの前で彼に抱きしめられていた。 恥ずかしい。 でも、嬉しい・・・。 恐る恐る、彼の腰に自分の細い腕を回す。 そしてゆっくりと、彼の胸に顔を埋めた。 「円佳・・・。」 少し震えながら、私の名前を呼ぶ。 その声に振り向き顔を上げると、思い切り織田さんと目が合ってしまった。 「織田さん・・・、私・・・。」 彼の視線に引き込まれ、思わず気持ちが飛び出しそうになった。 だけど・・・。 「ストップ!!」 再び体を強く抱かれ、私は思わず言葉を飲み込んだ。 少しの間、沈黙が流れる。 耳に入ってくるのは、終末を目前にしながらも幸せそうな人々の声。 そして、遠くで鳴っている『ジングル・ベル』の鈴の音だった。 「ねぇ・・・、最後くらい俺がカッコ付けさせてもらっていいかな?」 ニッコリと微笑み、織田さんは私にそう尋ねた。 最後・・・。 そうだ、これが最後のチャンスだから。 「いいよ・・・。」 私が出した『Goサイン』。 その言葉を聞いた彼が、私に見せてくれたのは・・・。 抱き合った体をゆっくりと解き、優しく私の左手に触れる。 そしてその手を、自分のコートのポケットにしまい込んだ。 ポケットの中には、凹凸のあるリングが1つ。 それを指でつまみ、静かに掌の中に入れる。 「円佳、何か入ってた・・・?」 コートの生地越しに伝わった手の動き。 それを察した彼は、少し照れながら私に質問を投げ掛ける。 「うん・・・、輪っかみたいな、小さいもの・・・。」 少しだけ、期待してもいいのかな・・・? もしかして、これは・・・。
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