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「俺・・・、円佳があんな過去を背負ってたって知っても、どうしてもこれを渡したかったんだ。」
そう言って織田さんは、ポケットの中身を握る私の左手をゆっくりと引き出し、握られた拳を両手で包み込んだ。
「これ、クリスマスプレゼント。
それから・・・。」
どうしよう・・・。
私、まだ何も言ってないのに・・・。
でも、嬉しすぎて、言葉が出てこない。
「・・・俺と結婚して下さい。」
その言葉を言われた瞬間、目蓋の堤防に溜めていたものが崩壊する。
先に言われちゃったけど、私も同じ事考えてたんだ・・・。
「織田さん・・・、ずるい・・・。」
溢れ出る涙は止まらない。
だけど、今の私は満面の笑顔で彼を見つめている。
「私だって、同じ事言おうと思ってたのに・・・。」
そう言った瞬間、彼に再び抱きしめられる。
そしてゆっくりと、彼の唇が私の頬に触れた。
「・・・良かった。
こんな唐突だから、断られるんじゃないか・・・って・・・。」
彼の腕は、まだ震えている。
そして私の体も、それに応えるかのように震えていた。
「本当は、ずっと大好きだったの・・・。
でも、私なんか織田さんの眼中にないと思って・・・。」
「俺だって同じだよ。
円佳は店でも人気者だし、俺なんて客の1人に過ぎないと思ってた・・・。」
今までに何度も繰り返した『同伴出勤』。
だけどそれは、身分の違う私たちの『デート』だった。
お互いがそれを『妄想』とし、自分の気持ちを抑えながら繰り返してきた行為。
「ねぇ・・・、今日、お店休んじゃダメかな・・・?」
調子に乗って、こんなワガママを言ってみる。
そんな私の言葉に、織田さんはフフッと笑う。
「どうだろう・・・。
俺からママに話してみようか?」
「えっ・・・?」
「このまま同伴の延長をさ。
その代わり今日の円佳の時給分は俺が後日飲んで払うから・・・って。」
その『後日』は、もう訪れる事はない。
冗談を交わしながら、再び手を繋ぎ歩いていく。
向かう先は、ネオンの光が瞬く繁華街。
そして今日は、2人であの店のドアを開ける。
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