第1話

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―――1933年8月ドイツ 1919年・第一次世界大戦敗北 ベルサイユ条約締結による多額の賠償金の請求 たちまち、大不況に陥った 国は造幣を命じ、インフレが激化 今までどの国でも類を見ないスタグフレーションとなった 街には只の紙と同等の価値しかない紙幣が舞う日々が続いていた それから約15年が経った 今年、アドルフ・ヒトラーを首相に、ナチ党がドイツ政権の実権を握った 人権を示したワイマール憲法は廃止された今、市民はナチスの完全な独裁下にある 初の強制収容所(ダッハウ強制収容所)が設置され、アーリア化が順々に進められている "アーリア族こそが世界を治めるのに相応しい" "ユダヤの血はアーリアの血を汚す病原菌だ" そんなナチスの思想が浸透しつつあり、街は妙な緊張感が漂っている そんなドイツの街を全身黒スーツの男が歩いている コツ…コツ… 大股、尚且つ一歩一歩を繰り出すのが速い その歩き姿だけで街中の注目の的だ 高級感漂う身なり 一目でこの男が只者ではないと判る だが実際、人々の判断基準は其処ではなかった 「……ミンミンミンミンうっせぇな。」 真夏であるのに全身黒スーツ 汗ひとつ見せない 人々にとってそれは幽霊でも見てしまったのではないかと錯覚させた 男の名前はシン・ギル・フォールギン 彼は証券会社の副社長を務める超エリート・サラリーマンだ 仕える部下は山程いる 金融業である為、ほとんどがユダヤ人である そして彼にはもうひとつの顔があるのだった 《…ッ…ッッ……》 シンの右耳に常に刺さっている小型無線機からモールス信号が聞こえてきた 「いま、すぐに、こい………だと?……ちっ。」 舌打ちしてから、会社とは逆の方向に進み始めた ナチス本部 シンが到着すると、直ぐに奥の部屋に通された 顔パスだ 部屋で待ち受けていたのはゴツい男2人と華奢な少女1人だ 男の内の1人はもう知らない人は居ないだろう、アドルフ・ヒトラーである その隣に居るのは、シンの年齢2倍、体格1.5倍のブロンドの髪の男だ そして其処に捕縛されている少女…… 「……誰だ、コイツ?」
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