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部屋に残されたシンは大きな溜め息を吐いた
―――利用価値を見出だせだと?随分と簡単に言ってくれやがったが……
「おい、"金"。何でてめぇじゃなくて俺なんだ?」
シンはさっきから直立不動でいる大男に問い掛けた
"金"と呼ばれた大男は急に態度を変えた
「はあ~?もうゴールドラッシュは終わっちまったんだよ。俺はもうご隠居様々だ!」
さっきまでの威圧感はまるで無くなり、今となっては腑抜けたただの大きな酔っ払いだ
だが、何を隠そう、この男は真の実力者だ
男の名は、コンスタンティン・フォン・ノイラート
現在、外相を務めている
ご隠居もクソもあったもんじゃない
貴族出身が故に、議会での権威は絶大だ
ヒトラーもそれを利用するのも含め、ノイラートを内閣に任命したのだ
政権をえたものの、まだ他党の力もある
それを抑えるためには権力がものを言う
だが、そんなノイラートには誰にも明かせない秘密があった
ノイラートは、シンが着けている金のピアスに向けて人差し指を上げた
すると金が溶けだし、空中で蝶に形を変えた
「……ほぅ、純金とは。随分厚待遇を受けているんだなあ、シン?」
ノイラートは金の蝶を床に倒れている少女の元へやった
そう、この男もまた、錬金術者なのだ
ノイラートは母親とユダヤ人の男との間に産まれた
これこそが最大の秘密だった
ノイラートが縄を解いてやると、少女は金の蝶を手に取った
少女は目を輝かせながら蝶と優しい顔をしたオッサンとを交互に見つめている
シンは気味が悪かった
ゴツいおっさんと少女とのコントラストも相当な吐き気だが、それではない
殴られて直ぐにこんなにも無垢な表情を見せるなんて
―――普通の人間じゃねぇ
「……随分なつかれてるじゃねぇか。いっそこのままアンタが引き取ってくれよ。」
シンは直感的に嫌なものを感じていた
出来る限り関わりたくはない
「私には、2人子どもがいるんでね。……シン君、君にもそういう経験をしといた方が良いと私は思うよ。」
ノイラートはわざとらしくヒトラーの口真似をした
そして笑ながらシンの肩を叩いた
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