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シンは少女を連れて職場へ行った
副社長というが、実際のところこの会社の実権を握っていると言っても過言ではない
つい最近まではユダヤ人が社長であったが、アーリア化によってアーリア人が就任した
しかし、その新しい社長は、
―――ただのクズだ。
シンは机の上に山積みになった書類のさらに上に足を乗っけて椅子に座った
「……マルク、…マルク!!」
シンは部屋の外に向けて怒鳴るように呼んだ
「わあぁ…!は、はい!!…お呼びでしょうか!?」
バタンッ!!
背が高く色素の薄い青年が勢い良く入ってきた
年はシンよりずっと若く見える
まあ、シンが年齢の割に態度がでかいからであろうが。
「ああ。マルク、お前は確かヘブライ語を話せたよな?」
「え?あ、はい……それが何か…」
「俺がこれから言うことを全て訳せ、コイツに。」
「…はい?」
「あぁ?」
「はい!!」
マルクと呼ばれた青年は、その時ようやく部屋の隅に立っている少女に気が付いた
すると少女と目が合った
少女は屈託の無い笑顔を向けてきた
「……可愛い。」
マルクは感嘆の声を洩らした
「マ、ル、ク……?」
シンが低い声で1音1音強調して呼び掛ける
「はいィ!?」
急に我に返ったマルクは声を裏返らせた
シンは構わず続ける
「"俺はシン・ギル・フォールギンだ。お前の名前は何だ?"と言え。」
マルクはそれを通訳する
"私の名前はマルクです、マルク・ケルビン。……そして彼がシン・ギル・フォールギン副社長です。……えと、貴女の名前は?"
マルクはちゃっかり始めに自分の名前を付け足した
"私はリンレイ・ラザナフよ。"
"ゴホンッ…失礼ですが、副社長とはどのようなご関係で?"
"……まだ、分かりません。"
"あ、いや!話しづらかったら別に良いんだよ!!"
"大丈夫です。昔から慣れてますから。"
急に弱々しい微笑みに変わった
マルクがどうしたものかとあたふたしていると、シンが口を開いた
「余計な話をしてるんじゃねぇぞ、マルク。……コイツには聞きてぇ事が山程あるからな。」
そう言うと、椅子から立ち上がりリンレイの前に立った
リンレイはシンを真っ直ぐ見据え、独り言のように呟いた
"……私が泣けば良いんでしょうから。"
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