0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
9月後半のある日
私は昼寝をしていた。
少し肌寒い風と、少し暑い日差しがたまらなく気持ちいい。
「ちひろー、今日移動教室だよー?早く起きなよ!」
そうやって私をゆすぶってきたのは、同じクラスの新留 咲だった。
「あ、移動教室なんてあったのかって顔してるね?今日から家庭科の授業じゃなくて、技術の授業が始まるんだよー!」
にこにこと陽気に話す彼女は
本当に可愛らしくて、寝起きの気分の悪さも何処かへ吹き飛ぶくらいだった。
咲とは小学生以来からの親友で、唯一信頼できる女子だ。
「技術って何やるんだろうねー?
パソコンとかもやるらしいよー!
私、パソコンは得意なんだー!
ちひろもパソコンは得意だよね?」
首を傾げる咲に頷きを返す。
「でも、今日はパソコン室じゃなくて、技術室だからなぁ…
早くパソコンやりたいなー。」
しょんぼりとするその姿は
餌をもらえなかった仔犬のように小さく思えた。
別館にある技術室は、他の教室と少し作りが違って、ドアはとても頑丈な重い、押し引きするタイプの扉だった。
中は教室2個分くらいの広さで、奥には木などを切る作業をする機械などが置いてある。
「…変な雰囲気の教室だねー…」
中に入ると黒板の前には
背の高い、地味な顔をした先生が立っていた。
「…なんか、先生って感じしないね。」
確かに。
一応先生らしくジャージを着てるけれど…
ボサボサの髪に木くずだらけの
ジャージ。
「…あの先生、だっさ。」
いつもは優しい咲が
めずらしく顔を引きつらせている。
私はというと、そんなに顔を引きつらせる程、先生のイメージは悪いものではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!