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「何やってんの? 乗れよ」
「う、うん」
軽く眩暈がしたけど、かぶりを振った。
今になって、あの頃にどれほどの価値があったのかってことに気付いても、何もかも今さらだよ。
後ろに何やらたくさん荷物が積んであるワゴンの助手席に乗り込んだ。
「埃っぽくて悪いな、仕事で使ってる車だから」
「仕事?」
「ん。ジンから聞いてない? 今、親父の会社で下っぱからやってんの」
「……あ、そっか、マドカからそんなこと聞いたかも……」
ヒデオは苦笑して、ネクタイを少し緩めながら車を出す。
「営業しながら、現場駆けずり回ってる。体力勝負だな」
「えらいね。同い年なのに、ジンなんて遊び回ってばっか……」
「あいつ、意外に苦労人なんだからそう言うなよ」
肩を竦めたヒデオのスーツ姿。
見慣れなくて、ついじっと眺めてしまう。
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