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「彼と、付き合ってるんですね」
背中からあたしをいたわる為だけに発せられた声がした。
振り返ることもできずにいると、大きな手があたしの目元を覆い、そのまま声の主の胸に抱き取られるのが判った。
「判っていたら、もう少し早くこうして隠してあげられたのに」
真っ暗な視界。
焼け付くように熱い目から、とめどなく涙が流れていくのが自分でも判った。
「……泣かないで、マナミさん」
耳元で響く声は、あたしが望めば簡単に手に入るような、どうしようもなく甘やかした声だった。
どうして彼がここにいるのか、とか。
そんな瑣末なことはどうだってよかった。
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