14.霧散

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   夜更けに家に帰ってから、初めて携帯を疎ましく感じた。  恐る恐る電源を入れると、拍子抜けする程何もなかったからだ。  ヒデオも、さすがにまたジン達にあたしのことを訊ねるなんて真似はできなかったみたいだ、ってことは判った。  多分、ヒデオから死ぬ程着信があったんだろうけど、電源を切ってたから履歴が残らない。  嫌だな。  携帯なんかに心を試されたくはないのに、今この瞬間鳴ったら許してしまおうか……なんて考えてしまう自分がいる。  そんなことを考えて、笑いが込み上げた。  ヒトシくんに甘えるだけ甘えておいて、まだヒデオを責める気でいるの?  いっそ悪い女を気取れたらいいけど、人並みに罪悪感はついて回る。  ヒデオと付き合うようになって、流されるだけの自分とはサヨナラできたと思ってた。  だけど、ヒデオとの恋ですら──流されてたんだろうか、あたしは。 .
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