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その途中、あたしは一人でお手洗いに行き、そこで修学旅行生っぽい高校生に絡まれた。
気付いたヒデオが助けてくれたんだけど、彼はそのとき相手に利き手を掴まれ、肘の関節をあるべき位置とは逆の方向に捩られたんだ。
先生達に知られるのを嫌がって、ヒデオはたいしたことはない、と答えたけど、あたしだけは気付いていた。
利き手をひどく捩って、痛めてしまっていることに。
野球部の中学最後の夏の大会が控えてるっていうのに、この怪我が長引いたらどうしよう、って。
そう思ったら、責任感とか、ヒデオが可哀想だとか、色々なことが頭を過ぎった。
『泣くなって。翠川のせいじゃねえし』
口を尖らせながら、ヒデオはぶっきらぼうに呟いた。
今思えば、初めて見た女の子の涙を前に、ヒデオもどうしたらいいか判らなかったんだろうって判るんだけど、そのときのあたしはよけい責められてるように感じてしまって、さらに大泣きしたんだ。
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