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旅館の従業員が「どうかしたのか」という好奇の視線を投げかけてくるのは泣いているあたしにも判ったけど、ヒデオのことを考えると、涙が止まらなくて。
だって、一生懸命練習してたのを知ってる。
あたしもなんだけど、帰宅部のみんなが遊んでいるときにも、ヒデオは一日たりともサボることなく、部活に参加してたもの。
先生に怒鳴られて、先輩にこき使われて。
それでも野球に打ち込むヒデオの姿に、尊敬の念すらおぼえた。
あたしには、あんなに夢中になれるものってないから。
差し込む西日が、ロビーを鮮やかに染める。
強すぎる陽の光をさえぎるように、ヒデオはあたしの前に立った。
顔を上げると、ヒデオはギュッと唇を真一文字に結んでいる。
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