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生ぬるい風が抜けて行く廊下に、あたしとヒトシくんは取り残された。
ええと、どうしよう。
言葉に困っていると、ヒトシくんはあたしを振り返った。
「マナミさん」
「えっ、あ……何……?」
ヒトシくんはニコリ、と微笑んだ。
いつもの通り、優しい笑顔だけど、でも。
彼の見せる顔は決してそれだけではないことを、あたしはとっくに知っている。
「予定、ないですよね? どっか、行きませんか」
「えっと、でも、あたし……」
ヒトシくんが何を言い出すか判ってたくせに、その対応策を打ち出していなかった自分に、自分でがっかりした。
そんなあたしを、ヒトシくんは逃がすまい、という感じで見つめてくる。
口元は笑っているけど、目が笑っていない。
これが最近の彼の特徴だった。
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