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泣きはらした顔を晒していたくなくて、家に帰るなりシャワーを浴びた。
幸いと言うか、お母さんは出かけていて、またあのよく判らない話を聞かされることもなくて、ほっとした。
部屋に戻って鍵をかけ、窓を少しだけ開けて空気を入れ替える。
入って来た爽やかな秋風を受けながら、あたしはさっきのことを思い返していた。
──水沢エリは、ヒデオと一緒に学校を辞めた後のことを少しだけあたしに話した。
付かず離れず、といった感じで、妙な関係としてずっと付き合いが続いていた、というのはヒデオから聞いたこととほぼ同じだった。
だけど、水沢エリが退学した後、彼女がそのままヒデオのお父さんの会社に勤めていたなんて──あたしはヒデオからそんなこと一言も聞いてなかった。
ヒデオのお父さんは、自分の息子のせいでお嬢さんに恥をかかせて申し訳なかったと、連日水沢エリの家に頭を下げに行っていたらしく。
近所で噂になってしまっていたことも考えて、水沢一家に引っ越しをさせた。
そして高校を出てない水沢エリを雇い、今も大検を取れるよう何から何まで面倒をみているらしい。
経緯を知らされているわけじゃないとはいえ、ヒデオのお父さんの態度のおかげで、会社で水沢エリは完全に社長の息子の彼女、として認識されているそうだ。
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