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西門さんはしばらく黙った後、あたしに水を入れてくれながら、ぽつりと呟いた。
「マナちゃん、そんでその彼氏……エイユウくんと別れるの?」
ジンがヒデオを「エイユウ」と呼んでいることを気に入ったらしい西門さんは、まるで知り合いのことみたいにそう言った。
はたと押し黙ったあたしを見て、西門さんはクッ、と小さく笑う。
「まだそこまで考えてないか。結論が出るくらいなら大人しく家にいただろうし」
はなからそうと判って訊いたみたいだった。
確かに、不愉快と痛いのだけがたくさんあって、今日は自分の意思っていうのがまったく見えてこない。
ヒデオに必要とされてることくらいは、今だって判る。
彼はあたしを手放す気がないんだろうってことも。
でもそれは今だけの話で、本気で好きだの何だの言い交わしたところで、それに飽きたりしたらどうなるか判らない。
それは浮気の気配の欠片もない普通の恋愛だってそうだけど、ヒデオみたいに周りに固められているのなら、あたしとしてる恋愛って本気の遊び、そう呼ぶにふさわしい。
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