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「何で、いつもそうなんだよ。お前、肝心なこと全然言わない」
「言ったら、どうにかなったの」
「何?」
「言ったらヒデオ、仕事変わってくれたりするの? 水沢エリのこと、辞めさせたりしてくれるの?」
そういう問題じゃないだろ、とヒデオは顔をしかめる。
すでに薄暗くなってる中でも、不機嫌な彼の表情はよく判った。
判るんだ。
ヒデオの気持ちも言いたいことも、何となく判る。
けど、
いつか心に刺さったままのトゲが、
なかなか抜けない。
口唇を噛み、黙ってヒデオの横顔を見つめる。
カーブで減速しながらヒデオはチラリ、とあたしの顔を見た。
ふいっと視線をそらしたかと思うと、ヒデオはため息をつく。
「……んな目で、見るな」
苦しそうな声だった。
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