12.酔狂

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   いつかと同じ光景が、目の前にあった。  黙って見守っていたその人が止める間もなく、あたしはその光景を作り出したのだ。 「あーあーあー……」  きれいに着飾った女性たちが、おじさん世代のお客さんを接待しているのを背に、あたしはお店の隅のカウンターに突っ伏して、けらけらと笑った。  このカウンターは黒服さん達が雑務に使うもので、お客さんが座ってお酒を飲むところではない。  そのカウンターを、オーナーの権限で西門さんがあたしと一緒に陣取っていた。  トレイに西門さんの私物のお酒を乗せて持って来てもらって、もう1時間ほどここで軽く飲んでいる。  目の前の手付かずのビールジョッキに、あたしの携帯が沈んでいた。 「マナちゃん、どうすんの、これ」  心底呆れた様子で、西門さんはジョッキを持ち上げ、色んな角度から水没中のあたしの携帯を眺める。 「面白いでしょ。前、ヒデオにやられたの」 「面白いけど、絶対後悔するよ、これ」 「しないもん」 「『後悔先に立たず』って言葉、知らないのか」 「知らない。漢字読めない」 .
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