214人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
いつかと同じ光景が、目の前にあった。
黙って見守っていたその人が止める間もなく、あたしはその光景を作り出したのだ。
「あーあーあー……」
きれいに着飾った女性たちが、おじさん世代のお客さんを接待しているのを背に、あたしはお店の隅のカウンターに突っ伏して、けらけらと笑った。
このカウンターは黒服さん達が雑務に使うもので、お客さんが座ってお酒を飲むところではない。
そのカウンターを、オーナーの権限で西門さんがあたしと一緒に陣取っていた。
トレイに西門さんの私物のお酒を乗せて持って来てもらって、もう1時間ほどここで軽く飲んでいる。
目の前の手付かずのビールジョッキに、あたしの携帯が沈んでいた。
「マナちゃん、どうすんの、これ」
心底呆れた様子で、西門さんはジョッキを持ち上げ、色んな角度から水没中のあたしの携帯を眺める。
「面白いでしょ。前、ヒデオにやられたの」
「面白いけど、絶対後悔するよ、これ」
「しないもん」
「『後悔先に立たず』って言葉、知らないのか」
「知らない。漢字読めない」
.
最初のコメントを投稿しよう!