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呆れたようにクスクスと笑い、西門さんはジョッキの中から携帯を救い出して、素手で開けられるだけ開けてしまうと、ひとつひとつおしぼりで拭き始めた。
「ムダだよ、助かりっこない」
「俺もそう思う。けど、一応思い出の携帯なんだろ。エイユウくんに買ってもらったって言ってたじゃないか」
「それだけだよ。携帯はただの携帯だもん」
「……違いない」
苦い笑いを浮かべて、西門さんはとりあえずあたしの携帯を拭い終わったようだ。
今日だって、あたしはいきなり“月下美人”の正面から入ってきたというのに、こうして相手をしてくれてるし、面倒見のいい人だなぁ、と思う。
携帯を入れたことでジョッキからカウンターに零れたビールを拭く、西門さんの横顔を眺めた。
「ねぇ」
「ん?」
「西門さんは、好きな人っていないの?」
あたしのその質問に、西門さんの動きが一瞬止まる。
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