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そこまで考えたら、急に涙が滝のようにあふれて来た。
「マナちゃん? どうしたの」
さすがに女が泣いたくらいでは動じない西門さん。
今夜、ここへ逃げ込んできたのは大正解だったと思う。
「……この前西門さんがあたしのこと抱かなかったのは、誰か好きな人がいるからだったらいいなって思ったの。そういう理由の方が、好きだな、って」
「……ふむ。真偽のほどはともかく、一般的に考えて一途な感じで好ましいかな。俺もそっちの方が好き」
子どもっぽい、って言われるかと思ったから、西門さんの言葉に安心した。
「そういう理屈とか理由の方が好きだ、って心底そう思ってるのに、じゃあなんで、あたしとヒデオはそうじゃないことしちゃえるんだろう……こ、後悔しかないって判ってても、でも、どうしようもなくって」
西門さんは一瞬目を細めると、静かに頷いてくれる。
止まらないあたしの涙を、あえて拭ってくれようとしないところが、優しいなと思った。
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