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「ちゃんと、マナ本人に言ったことなかったけど」
耳の後ろで、ジンの少しかすれた低い声が響いた。
……あの夜、やけっぱちだったからってジンを受け入れたのは、このやたら甘くていい声のせいだったことを思い出した。
本人が自覚しているかどうかは判らないけど、ジンの声と話し方は女の子のガードを緩める力があると思う。
この声に、あたしはいつも安心していた。
もちろん、彼自身に惹かれなかったわけじゃないけど、ただ、恋と呼ぶには何か足りなかったんだ。
恋だったなら打算とか抜きにこの腕を選んで、ヒデオをあっさり裏切れたんだろうけど。
別にそういうことを狙ったわけじゃなかったし、そういうことをしたかったわけじゃない。
ジンを、傷付けたかったわけでも。
「……マナのこと、好きだ。
だからあのとき、
マナのしたいようにした。
それは、ホント」
あたしはジンに抱きしめられたまま、クスクスと笑った。
「……何だよ」
「じゃあ、あたしがあのとき頑として拒んでたら、何もなかった?」
「うん」
ジンは、やたらきっぱり頷いた。
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