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「マナのこと、好きだけど……ハラ立ってたけど、俺、エイユウのことも好きだし」
「……じゃあ今度はジンがヒデオと付き合うの?」
「バカ、真面目に聞けって」
「ごめん」
ジンはあたしを抱きしめる力を緩めると、少し顔を傾けて覗き込んできた。
「だから、好きな女とやれてラッキー、なんて今でも思ってないんだ。大きいのは、エイユウへの罪悪感」
「……それこそ、妬けちゃうんですけど」
え、とジンは眉を寄せた。
茶化してるわけじゃないんだけど。
「ヒデオとジンは、気が済むまで殴り合いしたんでしょ。あたしは、そうはいかないもん」
ジンはプッ、と吹き出した。
「そりゃ、そうだ」
傾き始めた陽が風の冷たさを隠せなくなってきて、少し寒い。
「……エイユウのところ、戻りたいんだ?」
ストレートにそう訊いてくるジンの瞳が、優しい。
一瞬、またジンにどうにかしてもらえないだろうか、なんて甘えた考えが頭に過ぎる。
だけど、それはあたしが一番しちゃいけないことだし、それに、ヒデオのもとへなんて戻れるはずがなかった。
喉元まで上がってきた苦いものを飲み下して、あたしはかぶりを振る。
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