15.反転

11/13
前へ
/20ページ
次へ
   ジンは苦笑すると、立ち上がって缶をゴミ箱に放り込む。  少し中が残っていたからか、ドプン、と音がした。 「そういうとこ、判りやすくて……可愛いって、いつも思ってた」  返事に困るようなことをサラリと言って、ジンはさっきの携帯をあたしに差し出す。  迷っていると、「もう何もしないって」と笑われた。  口を尖らせて見つめ返すと、差し出した手に携帯を乗せられる。 「あのさ」 「うん?」 「エイユウ、まだちゃんとマナのこと好きだよ」  ドキン、と心臓がまた跳ねた。  ジンの眼鏡の奥の瞳が、軽く細められる。 「水沢エリがね、マナミと別れたなんてどうせ嘘だ、ってエイユウに詰め寄ったんだ」 「……それ、あたし、聞かなくちゃいけない話……?」 「もし、マナがこの先何か決めるときがあるとして……そのとき思い出すこと、多い方がいいと思うんだ」 「何か決めるときって、何? そんなの、ないよ。あたしの人生にヒデオが関わることなんて、もう……」 「うん。それならそれでいいんだけど。マナ、今もエイユウのこと好きだろ。なら、例えば……エイユウのこと忘れる日が来るんだとして……」  ジンの言葉を受けて、それを想像した。  それだけでツキンと痛い。  心も、胸も、頭も。 .
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加