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ジンは苦笑すると、立ち上がって缶をゴミ箱に放り込む。
少し中が残っていたからか、ドプン、と音がした。
「そういうとこ、判りやすくて……可愛いって、いつも思ってた」
返事に困るようなことをサラリと言って、ジンはさっきの携帯をあたしに差し出す。
迷っていると、「もう何もしないって」と笑われた。
口を尖らせて見つめ返すと、差し出した手に携帯を乗せられる。
「あのさ」
「うん?」
「エイユウ、まだちゃんとマナのこと好きだよ」
ドキン、と心臓がまた跳ねた。
ジンの眼鏡の奥の瞳が、軽く細められる。
「水沢エリがね、マナミと別れたなんてどうせ嘘だ、ってエイユウに詰め寄ったんだ」
「……それ、あたし、聞かなくちゃいけない話……?」
「もし、マナがこの先何か決めるときがあるとして……そのとき思い出すこと、多い方がいいと思うんだ」
「何か決めるときって、何? そんなの、ないよ。あたしの人生にヒデオが関わることなんて、もう……」
「うん。それならそれでいいんだけど。マナ、今もエイユウのこと好きだろ。なら、例えば……エイユウのこと忘れる日が来るんだとして……」
ジンの言葉を受けて、それを想像した。
それだけでツキンと痛い。
心も、胸も、頭も。
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