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彼に逆らう術がないのは、重々承知している。
ヒトシくんは煙草をくわえると、苛立ちを隠さない仕種で火を点け、煙を深く吸い込み、同じように大きく吐いた。
「で、リリスさん」
「り、リリス……?」
「メソポタミアの、夜の魔女。淫魔のことだよ」
「い、淫魔って……」
その言葉の響きが、どうにも恥ずかしい。
ものすごい侮辱を受けた気がするんですけど……。
ヒトシくんとまともに目を合わせられないこともあって、あたしはうつむいた。
「恋人のお友達の味は、どうだった。俺より、よかった?」
ズキン、と心臓が痛くなった。
ひどいことを訊いておいて、ヒトシくんは静かにブレンドを口に含ませる。
ゆっくりコーヒーなんか、味わっている。
「……そんな顔、しないで。ひどいことを言ってるのは、判ってるから」
カチャン……と静かにカップが置かれた。
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