14.整頓

4/7
前へ
/20ページ
次へ
   彼に逆らう術がないのは、重々承知している。  ヒトシくんは煙草をくわえると、苛立ちを隠さない仕種で火を点け、煙を深く吸い込み、同じように大きく吐いた。 「で、リリスさん」 「り、リリス……?」 「メソポタミアの、夜の魔女。淫魔のことだよ」 「い、淫魔って……」  その言葉の響きが、どうにも恥ずかしい。  ものすごい侮辱を受けた気がするんですけど……。  ヒトシくんとまともに目を合わせられないこともあって、あたしはうつむいた。 「恋人のお友達の味は、どうだった。俺より、よかった?」  ズキン、と心臓が痛くなった。  ひどいことを訊いておいて、ヒトシくんは静かにブレンドを口に含ませる。  ゆっくりコーヒーなんか、味わっている。 「……そんな顔、しないで。ひどいことを言ってるのは、判ってるから」  カチャン……と静かにカップが置かれた。 .
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加