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最近オレはおかしい。
あいつが気になってしかたなくて、気づけば目で追っている…
並んで歌っている時、この胸に手が触れ、首筋に息がかかる度に
身体の奥がキュッと縮み、全身の力が抜けそうになった事は一度や二度ではない。
先日のリハーサルの時など、突発的に開いた胸元のジッパーを
ちょっと首を傾げて可愛く笑いながら引き上げるものだから
俺はさすがに感情を抑えることができず、一瞬とはいえ狼狽えてしまった。
「このままではマズいな・・」
番組収録終了後のエンディング、いつもならダイキと手を取り合い客席に向けての挨拶をかかした事のないユウヤだが、今日はむしろそれを避けたくて、後輩の一人が挨拶に来たことを自分の中の言い訳にして、その後輩と肩を組み、わざと戯れあうような挨拶を終えると
ダイキを一人残し早々に控え室へと逃げだした。
その日から、ユウヤはバツの悪さと罪悪感からダイキを避けるようになっていく。
ダイキには悟られないよう注意を払いながら。
ボクは気づいていた。
あの日のリハーサルからユウヤが自分を避けていることを。
でも、その少し前からユウヤの様子ははどこかがおかしかった。
以前は、目が合うと微笑んでくれた。
疲れて楽屋の椅子に腰かけると、肩をもんでくれた。
髪を撫で顔を覗き込み、その優しい瞳でボクを包んでくれた。
もちろん、優しいところは今までと全く変わらないし気遣ってもくれる。
だけど、どこかよそよそしい…
気のせいなんかじゃない。
そう…ユウヤは全くといっていいほど、ダイキに触れなくなったのだ。
ボクは、元々スキンシップは嫌いだ。
最近では、それが麻痺したかのように日常的になっていること事態、自分にとってはおかしかったんだ。
良い傾向じゃないか。
そう自分に言い聞かせながら、数メートル先で談笑しているユウヤに目を移した瞬間、ユウヤの左手が一人の黒髪の少年の頬を覆った。
ダイキの胸はズキンと音をたてた。
湿った砂が肩にのしかかるような感覚とともに、そのズキンという音は確かにダイキの胸の中で響いた。
「僕は…僕は、いったい何を期待していたというんだ…」
感情が高まるにつれ、泣きだしそうになる自分。
ダイキは自制できるうちに一人そっとその場から立ち去った。
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