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「…遅いよ。何分待ったと思ってるの」
声の主を探そうと視線を彷徨わせると、本屋入り口の柱に寄りかかる黒のジャケットの男が目に入った。
サラサラの黒髪に黒縁眼鏡。
それが野暮ったく見えないのは、彼の醸し出す聡明な雰囲気のせいだろう。
二月十四日、金曜日。
待ち合わせ場所である行きつけの本屋に着く頃には十六時を越えていた。
待ち合わせ。
いや、違う。
だって私はそんな約束していない。
「遅いって言われても。これでも講義終えてすぐ来たんですけど」
「そう」
私は彼に向かい合って立つと、「初めて」その姿をまじまじと観察した。
私より少し年上。
身長はさほど高くない。
いや、私が高いヒールを履いているからそう感じるのかも。
整った顔は、女の子みたいに肌がつるつるだ。
不躾な態度に気を悪くしたのか、彼は眉を寄せる。
「…寒くないの、ソレ」
ソレ、と。
彼は私の足元を指差す。
多分、ショートパンツの事を言っているんだろう。
…発想がオッサンっぽい。
そんな気持ちを込めて、目を細めて彼を見た。
「…で。持ってきた?」
「…一応」
「手作り?」
「……まあ」
大きめのバッグから紙袋を取り出すと、それを彼に差し出した。
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