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これは、所謂チョコレートだ。
昨日、お菓子作りが得意な姉に教わりながら、生まれて初めて作った手作りチョコレート。
ただ残念な事に、生まれて初めての手作りチョコレートは本命でも無ければ義理でも無い。
それを催促した筈の彼は、受け取ることもせずただ黙って私の手の中の紙袋を見つめていた。
微妙な空気の中、ふと本屋のガラス窓に映った私達が目に入る。
無言で紙袋を差し出す女と、無言でそれを眺めるだけの男。
明るい髪色が目立つ私と、一見大人しそうな彼。
並んだ時の、あまりの不釣り合いっぷりに笑いが込み上げそうになる。
――何故こんな事になったのか。
今の訳の分からない状況が耐え難く、現実逃避をするために思考を巡らせた。
一週間前の金曜日だった。
今立っているこの場所で、目の前の彼に声を掛けられたんだ。
「ちょっと」
「はい?」
「来週の金曜日の今くらいの時間、ここで待ってるから」
「は?」
「持ってきて。手作りチョコレート」
「…は?」
「ラッピングも、ちゃんと考えてしてきてね」
「……」
それだけ言うと、彼は立ち去った。
これが私達の初めての会話だった。
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