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何だかとんでもない事態になっている。
私が告白した、みたいになっている。
このまま帰したらマズい。
あくまで「仄かな恋心」であって「好きな人」と言う訳ではないのだ。
慌てて背を向ける彼の腕を掴んだ。
「からかってるんならやめてください。私、そんなつもりはないんですけど」
彼が振り向いた瞬間に視線が絡み合う。
その真剣な瞳に、思わず胸が高鳴った。
「見かけに寄らず、君はもっと賢いのかと思っていたけど。こんな事して誰かをからかうほど俺は暇じゃないよ」
「……」
「一つ聞いておきたいんだけど」
「…何ですか」
「君は、俺じゃない誰かでも声を掛けられたらこうして会いに来てたの」
――来てない、と心の中で即答した。
それを口にしなかったのは、目の前の彼が全てわかりきったような不敵な笑みを見せたからだ。
そんな顔を見たら、強張っていた身体から余分な力が抜けていく。
「……まずは名前、教えてください」
「四宮 明」
「…四宮さん。私は、日下部 千尋です」
「日下部さんね」
初めての自己紹介。
初めて二人の間に穏やかな空気が流れた。
名前を知っただけで、不思議と距離が近くなる。
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