1 屋上で

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 そう言って誠一は非常階段を目で探しながら立ち上がって走り出した。 『さてさて、いつ捕まるかな?』  半ば呆れつつその背中を見送る。が、二三歩駆けた所で彼は急に何かを思い出したように足を止め、こちらに向き直った。 「茜!」  まだ何かあるのかな?と勘繰りつつも、彼が何を言い出すのかと言葉を待つ。 「頼まれついでで悪いんだけど、日本史のノートを貸してくれないか?来週のテストの予習をしておきたいんだ」 「なんで貸さなくちゃいけないのよ」 「俺が日本史苦手っていうのは知っているだろ?まともにノートとってなかったから写させてほしいんだよ」 「え~、あたしも予習するんだけど…」  と文句を言いつつも、彼女はどうしようかと悩み始めた。が、何かを思い付いたのか急にニンマリとした顔になり、誠一に向かって意味有りげな言葉を投げかける。 「お腹が空いたな~」 「…は?」  その言葉が何を意味しているかは誠一にも分かっている、にも関わらず疑問系の返事を返したのは時間的な理由だ。 「お前…まだお昼を食べて二時間半ぐらいしか経ってないぞ?食べられてもパン一個ぐらいしか…」
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