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と、そこで彼は気付いた、パン一個奢るだけで手を打つつもりなのだと。
『なんだかんだと言いながらも、俺の事を心配してくれているんだな?それだけで手を打ってくれるなんて、うい奴め』
と、奢らされるという事実を忘れて勝手な事を思っていると、彼女は更に言葉を続ける。
「部活の後ってお腹が空くのよね~」
「…部活?」
「そうよ、楽器を鳴らすのって結構体力が必要なのよ」
「へ~そうなんだ」
と、彼女が言っている事を理解した誠一は、一人で勝手に納得してしまっている。が、すぐにその意味に気付いた。
「…って、何を食べるつもりなんだ?金がかかるじゃないか」
「どこかの高級フレンチのレストランに連れて行ってくれって言わないわよ。ハンバガーセットで手を打ってあげる」
それでもパン一つ買うよりも何倍も割高になる事に変わりはない。
「じゃ、六時頃に駅前の公園で待っているから、ヨロシクね」
一方的にそう言い残して、彼女は昇降口の扉の向こうへと消えていった。
その場に残された誠一は憮然とした表情をしながら、茜が消えた扉を見詰めていた。が、今はそれどころではないと思い出し、急いで非常階段へと走り出す。
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