1 屋上で

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 辿り着いた非常階段への降り口には格子扉が設けられている、普段なら内側からは簡単に開くはずなのに、いつの間にかきっちりと南京錠で施錠されていた。  ここでふざけて遊ぶような輩が多いので、あまり増えないようにとの配慮なのだが、今の誠一にとっては迷惑な事この上ない。  いや、表立ってではないが彼自身もその輩の一人、身から出た錆とはこの事か。 「こんなんで緊急避難の為の設備と言えるのかよ!」  もっともな意見ではある。しかも、今の誠一にとっては今こそが緊急避難を要する事態なのだ。  他に逃げ道はないかと彼が屋上を右往左往していると、ふと眼下に見下ろすグランドの風景が飛び込んでき た。  そこには、これから部活動を始めようとする部員達がちらほらと歩いている。明日でテスト一週間前、テスト勉強の為に部活は今日を境に中断する。だから今日は中断前の最後の部活動という事になる。  特に意識することもなく、この状況を打破するための思案をしながら流すようにグランドを眺めてていた誠一は、突如その中の一人に視線が釘付けになってしまった。 「あ、美由紀ちゃんだ」  彼が見ているのは陸上部に所属している一年の相原美由紀。  学校指定の運動着に身を包んでいる彼女は小柄で背が低く、吸い込まれそうなパッチリ二重の大きな瞳に、小振りながらもふっくらとした唇をした可愛らしい顔をしていて、誠一は密かに彼女へ想いを寄せていた。
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