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「美由紀ちゃん、頑張れ」
と、呑気に届くはずのない小声でエールを送り、自分の置かれた状況を忘れて彼女の姿をウォッチングし始めた。
すると、不意に彼女の背後から知った顔の男が近付いて肩を叩いて振り向かせ、そのまましばらく何かを話し込みはじめた。
「あ、あんにゃろ、俺の美由紀ちゃんの肩を気安く叩きやがって…」
その男とは、小中高と同じ学校に通っている遊び友達でクラスメイトの谷垣雅人。
二学期に入ってから陸上部の副部長になった、顧問からの信頼される熱い男だ。
おそらく声をかけたのは、何かの連絡事項を伝えているのだろうが、誠一にはそんな事はここからは聞こえないし関係もなかった。ただ彼女に気安く触れたというのが気に入らないという、十割嫉妬の実に自分勝手な理由で怒っている。
「おのれ谷垣め、一発殴ってやる!」
誠一は愛の一撃…実際にはただの難癖を付けに行こうとグランドへと向かう為な昇降口へと走り出だした。
と、その時、彼の向かっている昇降口の扉が勢い良く開け放たれて、見覚えのある男が仁王のような形相で現われた。
その男が何者で何の用があってここに来たのかを誠一が気付くよりも先に、男は誠一に向かって大声で一喝する。
「くぉらぁ結城!午後の授業をサボってこんな所で何をしていた!」
淡い恋の暴走を蹴散らす声の主は。
「げぇ!金森ぃ?」
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