プロローグ

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 街から離れた山間部にある川の上流の、鬱蒼と生い茂る木々が見下ろす広い河原。  昼間だったら日の光が降り注ぐ中、緩やかな流れの川で誰かが泳いでいるような、そんな自然が醍醐味のキャンプ場に彼は来ていた。  しかし今は夜。  照り付けるるような夏の日差しはなく、昼間の暑さが嘘のような涼しげな風が、すぐそばを流れている川から心地良く吹いている。  街の明かりなどは届かない、外灯などほとんどない中、月明かりの下を懐中電灯片手に彼は歩いていた。  彼の名は結城誠一。  彼がここにいるのは、家族や親戚とでアウトドアキャンプを楽しむ為。  もうすぐ夏休みも終わるから、というノリでほぼ無計画に決まった事なのだが、非日常な環境を彼は楽しんでいた。  が、こんな暗闇の中を足下に注意しながら歩いていると、なんでこんな所にいるんだろうという思いがチラチラと頭の中を過ぎる。 「…なんであんな離れた場所にしか建てないんだろ」  呟きながら歩いて行く先は、キャンプ場のすぐ近くを走る道路の脇に建っている、薄暗い外灯に照らし出された黒く変色したコンクリート建築物、飾り気も何もない打ちっ放しの外観をした公衆トイレだ。  造った側から言わせれば、後から勝手にキャンプ場が出来て、勝手に利用しているという事だろうが。  それはともかくとして、少々品がないが、河辺なんだから男だったら適当な場所ですればいいのに。と、思われるかもしれないが、昼間水っぽい物ばかりを口にしていたのかお腹が緩んでいて、所構わずという訳にはいかない。  とはいえ、ここはよくある山間部のキャンプ場、アスレチックのような障害などあるはずもなく、他の客の建てたテントとテントの間を歩くこと数分で、外灯下のトイレに辿り着いた。
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