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いい加減にしてくれないかな?と思いつつも、一方で彼女は誠一が本気で言っているのではないかと思い始めてきた。
さっき彼女が言っていたように嘘だとしたら面白くない、ペテンにしては内容が馬鹿馬鹿し過ぎる、からかうにしてはしつこ過ぎるからだ。
とは言うものの、彼女は彼の言葉をそのまま鵜呑みにするつもりは更々ない。あまりに真剣で未練たらしい彼の表情を見ている内に、半ば同情するような形で仕方なしに信じる気になっただけだ。
「もう、分かったわよ、半信半疑だけど信じてあげるわよ」
「…まじで?」
彼は一瞬固まり、そう呟いてズイィと彼女との間を詰めていく。
「ほ、本当か?本当に信じてくれるのか?」
椎茸の断面図のようなキラキラした目で、彼は彼女の眼前へと迫ってくる。
何とも言えない不気味さに、思わず二歩三歩後退りするが、地味に素早い動きで鞄を掴まれてしまった。
「ちょっと…本当だから、鞄から手を放しなさいよっ」
と、鞄に抱き着くようにしがみついている誠一をなんとか振り払おうと彼女は必死に鞄を引っ張るが、半信半疑という言葉と仕方なしにというニュアンスを無視した誠一は、しがみついた鞄をよじ登るようにして彼女に抱き着いてきた。
「ちょ、ちょっとぉ、何すんのよ、人が見ているじゃない、恥ずかしいから止めてってば!」
という彼女の言葉など、彼の耳には届いていない。
「茜~ぇ、お前だけは、お前だけは信じてくれると思っていたぞぉ~」
絶対に信じてくれないと確信していたくせに、いざ信じてくれるとわかると調子のいい事を言い出す。
当然だが茜にとって迷惑でしかない、いくら振りほどこうにも離れそうにない。
「何半泣きになってんのよ、クラスの誰かに見られたら誤解されるじゃないの」
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