プロローグ

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 無事に用を済ませてスッとした誠一は、トイレを出ると何気に河原のキャンプ場を見下ろす。  このキャンプ場は河原に作られていて、そのすぐ横に県道が通っている。その県道から河川敷に降りる道があって駐車スペースがあり、トイレは河原と道を挟んで反対側の道路脇に建てられているので、今の彼は少し急な坂を隔てて河原を見下ろしている事になる。  月明かりに照らされた川は暗闇の中であっても、ボンヤリとその輪郭を浮かび上がらせながら、山々の陰の闇の中へと流れていくその光景は、光の流れが生み出されているように見えなくもない。  その光の生まれる場所の傍に幾つか立ち並ぶテント、その中にまだ明かりの灯っているものが数棟あり、その電気の明かりがアクセントになって光の川の雰囲気を醸し出していた。 「まだ起きてる人いるんだ…」  灯りの点いているテントを眺めていた誠一は、自分もその一人だという事を棚に上げながらそう呟くと、自分のテントに戻ろうと道を渡って河原へと降りていく。  と、その時、人工的な音のない暗闇に向けて、不意に彼のポケットの中からメールの着信音が響き渡った。  雰囲気無視な無粋とも思えるメロディー音、その音の発信源であるスマホを取り出して確認してみると、伝言板への書き込みが云々という表示がある、それは彼が登録しているSNSからの通知メールだ。  何かなと思いつつサイトにアクセスしてマイページの伝言板を見ると、そこには会った事のない他府県のSNSの友達から「お休みなさ~い」という書き込みただそれだけ。
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