プロローグ

4/5
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
「…寝ちゃってください」  スマホに向かって口頭で返事をしてアプリを閉じる。相手が公開している年齢からして、飲んで帰ってきたのだろう、画面に表示された時刻は午前二時半頃だ。 「そうだな…さっさと戻って自分も寝よ」  そう呟いてスマホをポケットに収める。いや、収めようとしたスマホは、手元が狂って足下に落としてしまった。  坂の端を歩いていたため、足下で軽く弾んだスマホは、キャンプ場とは反対側の七十度ほどの斜面を転がり落ちて、テント灯りもない暗闇に紛れてあっという間に見失ってしまった。 「ああ!」  思わず大きな声を挙げ、その場から一度斜面の下の方を覗き込んでから、下り坂を急いで駆け下りて落としたスマホを探す。  大体落ちたであろう場所を探っていると、草むらの中でうっすらと光るディスプレイの明かりを見付け、無事に回収できた。  いや、正確には無事とは言い難い。  残念ながらディスプレイに大きな亀裂が走っており、加えて無数の傷が全体を覆っていて、横から見れば僅かに反っている。 「あぁ…これは…」  確実に使い物にはならない。  絶対怒られるなと頭を抱えていると、急にゾクゾクッと冷たい得体の知れない何かの気配を感じ取った。  驚いて反射的に気配がした方を振り返ると、少し離れた場所にコンクリート製の台座と、その上に乗っている長方形の石が見える。 「…何だろう?」  不気味に思いつつも興味を持った彼は、割れたディスプレイで照らしてみるが、当然ながらその程度の明かりではそれがなんなのか分からない。
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!