プロローグ

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 近付いてみると、それが何かの石碑だという事に気付く。  が、建てられてかなりの年月が経っているらしく、暗がりも手伝って刻まれた文字がほとんど読めない。 「…明るくなってからでいいか」  そう呟きつつも、暫く石碑を眺めた後、欠伸を一つしてから自分のテントへと戻っていった。  そして翌日。  使用不能になったスマホの事で頭がいっぱいになっていた誠一は、親に怒られた事も手伝ってブルーな気分を払拭する事ができず、昨晩見た石碑の事を思い出すこともなく、昼頃にはテントを畳んでそのキャンプ場を後にした。  数日後には最新のスマホを手に入れて、ご機嫌で親しい友人やSNSなどで、壊れた経緯とともに新機種の機体を自慢していた。  そして、瞬く間に日にちは流れて八月も終わり、長かった夏休みも明けて新学期、彼の頭から石碑の事など、霞んで消えている。  こうしてこの年の彼の夏は終わった。
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