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残暑の名残も影を潜め、夕暮れともなればそこかしこから夏とは違う虫の音が聞こえ出し、山々の木々や街の装いも秋の匂いが漂い始める頃。
そんな晴れ渡った秋空の下で、深い眠りに就いていた結城誠一は、不意に肩を揺らされて夢の世界から急激に現実へと引き戻される。
「…一、誠一ってば」
「…んぁ?」
うっすらと開いた寝惚け眼に、眩しい青空が飛び込んできた。
その青空の風景の端に見慣れた少女の顔が見える。
彼が起きたのを確認したその少女は、不思議そうな顔で彼に話しかけてくる。
「何してるの?こんな所で」
「こんな所って…」
彼女が何を言わんとしているのか解らず、半身を起こして辺りを見渡す。
そこは一面コンクリートの床の上で、三メートルほどのフェンスに囲まれた場所。やけに景色が見渡せて風通しのいいこの場所で、彼は今まで熟睡していたのだ。
「…屋上…か?」
「そうよ」
「何でこんな所で…」
「こっちがそれを訊てるの」
彼女の言葉に、それもそうかと馬鹿な質問をしたと思いつつ、誠一はここで寝ていた理由を思い出そうと頭を捻る。
彼は県立加世北高校に通う高校二年生で、優等生でも落第生でもない、ごくごく普通の学生である。
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