1 屋上で

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 そして、今彼を眠りの中から揺り起こした少女の名は石田茜。  誠一と同じく加世北高校の二年生で、クラスメイトでもあり幼馴染みでもある。彼とは違って彼女は、どちらかと言うと優等生に属する学生で、勉強や部活の吹奏楽に積極的に取り組んでいる、帰宅部の誠一とは全く違うタイプの人間だ。  二人は幼馴染みと先程述べたが、互いに相手を選んでなったわけでもないし、異性を意識するような間柄でもない。半ば腐れ縁のようなものだと、少なくとも誠一はそう思っている。  そんな幼馴染みの彼女は、必死に何かを思い出そうとしている誠一の姿を見て、呆れたように話しかけてきた。 「何の届け出もなしに帰ったのかと思えば、こんな所でお昼寝をしていたとはね。テストも近いというのに午後の授業をサボるとは、たいした余裕ね、結城誠一く~ん」 「サボり?」  そこへきてようやく彼は、昼食後に屋上へ上がって昼寝をしていた事を思い出した。  と、同時に、寝過して午後の授業をすっぽかしてしまった事に気付く。 「い、今何時だ?」  頭が混乱しているのだろうか、腕時計をしているのに周囲に時計が無いかとキョロキョロと見渡している。 「もう三時過ぎよ」  彼女の声が聞こえていないのか認めたくないのか、彼女が時間を伝えたのにも関わらず、信じられないといった表情を浮かべたまま、ようやく自分の腕にある腕時計に気付いて時間を確認する。  当然の事ながら、彼が信じようと信じまいと時計の針は彼女の言った三時十一分を指していた。
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