第10話

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 視界を覆っていた膜が剥がれ落ちた。手の甲にぶつかってぐちゃ、と潰れた。 「……と言うか、心底不思議なんですが。あんたのその自虐趣味は遺伝か何かですか?」  槙田は人の鞄を勝手に漁り、 「煩かったんでサイレントにさせてもらったんですけど。ほら、」  一寸の躊躇いもなく、携帯をブン、と投げて寄越した。  真っ直ぐ飛来した端末は、右耳の上にバチィと命中し、 「……いてえ……」 「すみません。俺、力強いんですよ」  悪びれもせずしれっと言う。そんなこと充分すぎるほど分かってるし、今のはそういう問題じゃない。  眼からはぼろぼろ涙を零し、利き手では横頭を押さえながら、左手で布団に埋まっていた携帯電話を拾い上げる。  まるで使っていないお陰で、昨日の朝から充電していないにも関わらず、電池はまだ生きていた。  デスクトップ画面を起こし――そこに表示された、新着メールの数に目を見開く。 「……37」  その殆どが、サークルのメンバーから届いたものだった。  指が震える。覚束ない手付きでメッセージを開いてみてーーとても信じられなかった。  開く。開く。信じられない。  また開く。また、信じられない。 ーーなんでだ、  俺は都合のいい夢を見てるのか。目をこすればこの文字列は消え、真実のーー罵倒の言葉の数々が、浮かび上がってくるんじゃないだろうか。  視界がぶわと雲って、目を覚ませ、とごしごしこすってみる。またすぐに雲ってーーだけど、辛うじて見える文字列は、変わらない。  『いい加減懲りたでしょ。これからは自分大事にしなさい。岩武の心配独占するなんて許さないから。明日までなんだから、さっさと帰ってこい、祷』。  18分前に届いた、絵文字も改行もなしに綴られた古賀からのメールが最後だった。 ーー俺は、  感情の昂りに身体が震えた。  『待ってるから』、  『待ってます』、  『待ってる』、  『帰ってこい』。  この眼で辿った言葉の断片が、どうしようもなく訴えてくる。 「……っ」 ーーまだ、日陰の端っこに、 ーー踏み止まれて、いるのか。
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