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「はい、他になんか周知しとくことある人。……いねえな?」
大学の部室棟。三階の多目的室。
室内前方に残された長机に両手をつき、屈んだ姿勢のまま視線を巡らす。
「いいか、本番まであと2週間だ。暑いっつってへばってる場合じゃねーぞ。ぶっ倒れねえようにこまめに水分補給、役者もスタッフもな。じゃ、活動開始」
30人分の返事が一気に押し寄せた。
役者と演出家ーーそして俺を残し、スタッフはわらわらと外へ出ていく。
室内にはドアなどの簡易な舞台装置と、今日の練習に必要な小道具、それから台本とペットボトルを置くための長机が1脚。
一切の無駄を省いた空間で、いまは演出家が、役者にこれからの指示を飛ばしているところだ。
「いのりん先輩」
最早ツッコむ気も起きなくなるくらいには馴れたあだ名を呼ぶ声に、本日のタスクリストから顔を上げる。
舞台設営部の、ふわっふわした頭が特徴的な男だ。いかにも軽そうな頭とは不釣り合いに、その表情に使命感をみなぎらせている。
「どした?」
「あの、前々から相談してたみたいですけど、うち、いよいよ予算やばいっぽいです。なんとかなりませんかって、うちの部長が」
「……なんでそんな大事な話を後輩に押し付けてんだあのボケは」
「それが、ただでさえ暑くて忙しいのにいのりんに怒られて消耗すんのやだー、ってごねて」
「あとで話行くから、覚悟しとけって言っとけ」
ありがとうございます、と駆け足で去っていく。髪型の割りには生真面目な奴だ、とどうでもいい感慨に耽りながら、俺はリストの確認を済ませた。
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