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俺の所属する演劇サークルは、毎年夏期休暇中に行われる公演の本番を間近に控え、ただ今その準備に追いに追われている。
役者、舞台設営部、衣装部、宣伝部、音響・照明部ーー様々な部署が「何かを生み出す」仕事に従事するなかで、俺の仕事はと言えば金の管理、練習場の手配、対外交渉、などなど、一言で言うならば雑用である。
さすがは学生の集団らしく、公演に掛ける気合いこそ一様にあれど、色々な意味でベクトルはバラバラ。
そんな灰汁の強いメンバーを、時には力業も駆使して1つにまとめ上げるーー精神的な面での裏方としても奮闘、できていればいいなと思っている。
さて、まずは宣伝部とパンフレットの中身の最終確認を、と、ひとまず部屋を後にしようとしたところで、
「あ、サキ!」
「……次そう呼んだらぶっ飛ばすぞって言ったよな?」
「ごめんごめん。咲良、今ちょっといいか? 話があるんだけど」
苛々を募らせながら、今公演の演出家ーー岩武信次郎に向き合う。
こいつとは高校以来の仲で、先日「サキって呼ぶの可愛くないか?」と実に今更ながら、それも実に気色悪い呼び名を提案してきた脳筋野郎だ。
いつのまにか背後に迫ってきていた信次郎は、アメフトの選手ですと紹介されたところで違和感がないほどがたいがいい。
「話? また新しい呼び方考えたとかだったら捻り潰すぞてめえ」
「そんなわけないだろ。ちゃんと真面目な話だ」
そんな大男が、言いながら身を捩らせている。罰の悪そうににへにへ笑っているのが何とも不気味でーー不吉だ。
「……んだよ、さっさと言え」
役者たちは各々自由に自主練を開始している。
情感たっぷりに台詞を読み上げる声が充満するなかで、不本意ながらも対峙している筋肉達磨の一挙一動へ、神経を研ぎ澄ます。
「あのさ」
「ああ」
「やっぱり、スガ役なんだけど」
スガ。
今公演の台本に登場する、男性歌手の役。
スタッフも含めた全男性メンバーでカラオケに行った上での、むさ苦しさにうち震えながらのオーディションが記憶に新しい。
それが、やっぱり、何だと?
「違う奴に……もっとこう、貫禄のある歌を歌える奴に頼みたい。サークルの外で探してでも」
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