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ぐ。
俺は更なる罵倒を吐き出そうとした口をつぐむ。
役者たちが練習をやめて、俺たちの方を窺っていた。アキ君やっぱやめるんだ、もともとスタッフだしな、けどどうすんの、と囁き合う声。
それなりに空調が行き届いているとはいえ、まだ暑い空気が緊張感を帯び、居心地の悪さを倍増させていく。
隣室で軽音サークルのギターが、空気を読まない軽快なメロディーを掻き鳴らしている。
ぱちん、と手を打ち鳴らす音がした。
視線だけ流せば、うちの看板女優である古賀優那(こがゆうな)が、普段同様の表情の薄さで立っていた。
「私達はとにかく練習」
そして壁に向き合うと、その表情を一変させ、凛と張りのある声で台詞を紡ぐ。
さすが優那、と、鷹揚として自分の彼女のスレンダーな後ろ姿を見詰める筋肉野郎と、自分自身に対して舌打ちをする。
動揺を回りに広めるのは良くなかった。俺は長い息を吐き出しーーそして、覚悟を決めた。
「……秀明(ひであき)には俺から連絡しとく。今からでも衣装に入れるようにしとくってのと、だから休んでねーで来いってのと、悪いのは馬鹿筋肉だから気にすんなってのと」
「お前の中で俺は筋肉でしかないのか」
「衣装部長にも俺から話しとく……ああ、衣装のサイズとかも変わんな、くそ」
再び舌打ちし、俺はその他のフォローについて思考を巡らせる。
あとは宣伝部と、まずは手近なとこにいる軽音に話かーー折り合いわりーんだよな、ついさっきも発声練習がうるせーだのって文句つけて来やがったばっかだしーー
「つーか岩武、てめえが納得しないとしょうがねーんだから探すの協力しろよ」
「……ああ」
その声色に、ん? と顔を上げると、岩武は表情を歪めていた。明らかに笑いをこらえている。
「……喧嘩売ってんのか?」
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