籠の鳥~春

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「やっぱり次来たね。」 知子は表情をほとんど崩さず、 ゆっくり低い声で言った。 「また次もあるのかな。 犯人…校内にいそうだよね。」 やはり表情が崩れない。 長谷川知子の顔は美しい。 肌は、白い皿のように ムラがなく滑らかで、 目、鼻、口、輪郭、 どのパーツも文句の付け所がない。 美人だな… 昔から見とれてしまい、彼女の話に 集中できないことがしばしばあった。 私は昨晩、なかなか寝付けず、 このイタズラの今後の展開について考えた。 だけど犯人が次にどう出るかなんて 分かるはずもなく、 諦めた頃に眠りに落ちていた。 「犯人探す方法って張り込みとか。 秋葉で防犯カメラ買って、 更衣室に設置してみるとか。 ウス先に相談するとか。 あーやだやだ、 アイツのお世話になりたくないし。 てか、もしやウス先が犯人じゃねーの?」 私はアヒル口で、 白眼をむいておどけてみせた。 知子がはにかむ。 知子って、せっかく歯並びがいいのに ほとんど口を開けて笑わないんだよね。 ウス先は、担任のデブでキモいおじさん。 今朝の朝礼で 「俺は32歳だからお前らから見たら おじさんかもしれんが、 今が一番モテキなんだよ。」 ってどうでもいいこと言ってたっけ。 本名は臼井豊先生だけど、 見た目が猿蟹合戦に出てくる ウスにそっくりだから、ウス先。 専門は歴史でけっこう話がおもしろいから、 みんなが言うほど私は嫌いじゃないけどね。 「私、もう少し様子見てみようと思う。」 「うん、そうだね。 こちらから行動を起こすのは早いかもしれない。 けど、優紀、なるべく1人で行動しない方がいいよ。」 「うん。 知子が休みのときは由美たちと一緒にいる。 よく考えてみると、1人の時ってあまりないよ。 大丈夫だよ。」
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