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『用意はいいか、野郎共!』
親方のどなり声がトランシーバーから聞こえる。これで挑戦するのは何度目だろう。僕はクレーンのエンジンをブルンと吹かすと、レバーを握った。
『こちら鈴木、了解です』
『スヴァル・ポルコビッチ。OKボス』
『初台だ。こっちも大丈夫』
『本多、今日は残業なしですよ』
トランシーバーから次々と仲間達の準備完了の声があがる。
「石橋っス。やっちゃいましょう」
『よし、カウントダウン。3……2……1。引っ張れぇぇい!』
合図と同時にレバーを力一杯引っ張る。
北極の地。そこに開いた大穴を六台の巨大なクレーンが囲んでいた。本来ならば海洋工事に使用される世界最強のクレーンが一斉にワイヤーを巻く。その様子はまるで魚釣りをするようだった。
しかし、獲物を悠長に待つ釣りとは少し違う。すでに引っかかった特大の獲物を6人掛かりで引っ張りあげるのだ。
ラッキースター。そう呼ばれている獲物を僕達は釣りあげようとしていた。
レバーを持つ手が震える。少しでも握力を緩めれば一気にレバーを持っていかれそうだ。計算された正六角形の一つでも欠ければ、獲物に逃げられる。血管の浮き出た手には玉のような汗。
「西さん。デッドラインは?」
『速度は徐々に落ちている。あと少しだ』
獲物に繋がれているワイヤーは七本。六本はクレーンが引っ張り、残りの一本は目印として一定間隔で赤く塗られている。僕達はこれをデッドラインと呼び、最後の赤が穴に入ったときが地球の最期だ。
『あと少し。お前らぁ、気合入れろ!』
バツン。
親方が叫んだ瞬間、一本のワイヤーが音を立てて切れた。それは今回の作戦も失敗したことを意味していた。
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