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親方はポケットから紙を数枚取り出すと、一枚ずつ机に並べた。
「今まで俺の我侭に付き合ってくれて感謝する。だがそれもここまでだ」
親方の机に並べられていたのは、日本行きの航空券だった。
「こいつがあれば日本に帰れるはずだ。最期の日くらい好きに生きてくれ」
皆一様に俯いて沈黙した。その中で真っ先に動いたのは、本多さんだった。
「親方、すみませんが俺は帰らせてもらいます。今までお世話になりました」
腕組みして座る親方に深々とおじぎすると、航空券を取って部屋を出た。
……なんだよ、それ。
次に動いたのは鈴木さん。
「最期は、家族と一緒に……」震える声を絞り出して、いつまでも頭をあげない。部屋を出るときには眼が赤く充血していたように見えた。
……嘘だろ。
西さん、初台さんが続く。二人共、嗚咽を漏らしながら部屋を出て行った。
最後は軍曹が親方の前に行く。僕もつられてふらふらと親方の前に行き、航空券に手を伸ばした。
…………こんな終わり方、嫌だ。僕は手にした航空券を手の中で握りつぶす。
「親方! 僕は最期まで親方に付いていきます! やってやりましょう。世界、救いましょう」
そして隣で航空券を眺める軍曹の方をチラリと見た。少しでも仲間が多い方がいい。
「ボス。ボクの故郷、ロシアなんデスけど……」
親方は魚のようにパックリ口を開けて、軍曹と見つめ合う。
軍曹、残留決定。
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