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翌日の作戦の準備を終わし、僕達は最期の晩餐を楽しんだ。
軍曹はウォッカを飲みすぎたせいか、マトリョーシカと親方を間違えて一人で盛り上がっている。
僕と親方はその様子を見て、笑いながら缶ビールを飲んだ。
「親方、一つ聞いてもいいですか?」
僕は改まって親方の方を向く。
「なんだ?」
酒が回っているのか、顔が赤い。
「どうして世界を救おうって思ったんですか?」
一瞬黙って、ビールをガブリと一飲みすると親方は語り出した。
「生きたいからだ。……生きて、いたいからだ」
空になった缶を放り投げて、次を開ける。プシュっと音を立てた缶から溢れた泡を口に入れた。
「人生ってのはよ、いつか終わりが来る。今年生きてた人間が、来年には死ぬかもしれねぇ。今日生きてた人間が明日には死ぬかもしれねぇ。今吐いた息が、次入ってこないかもしれねぇ。だからよ、俺は今を生きることに必死なんだ。明日世界がなくなるってんなら、今できる最大限の抵抗をしたいんだ」
お前には言ってなかったかもしれないな……。
親方の口から次々にでてくる言葉を、僕は目を閉じて聞いた。
「俺は昔、中東のとある国の軍人だった」
そこでは死が日常のそこら中にあった。その中を生き抜いて軍に入り、そして命令が下った。
自爆テロ。生きて帰ることが許されない状況で、親方は敵国に突っ込んだ。そして幸か不幸か親方は奇跡的に生き残った。
「恥ずかしながら、生きて帰ってまいりました。涙ながらに敬礼して言った台詞の裏で、俺は心底生きててよかった、って思ったんだ。それからだな。この命がある限り、生きて生きて生き抜こうって決めたんだ」
僕はゆっくりと目を開けて、親方の方を見た。
生きたい。その純粋な気持ちが親方の強さなんだろうなと想像した。
……でも。
「……親方。……その昔話は五回目くらいです」
耳まで赤くした親方が、バチンと僕の背中を叩いた。
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