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最期の日はむかつくくらい晴天だった。薄暗い紺色の空に朝焼けがぼんやりと照らす。クレーンの六本の腕には、鮮やかな緑のオーロラが薄い布を被せたように覆われている。
僕はその光景に目を奪われた。
まるで神様が無謀な挑戦者を祝福しているみたいだ。くそったれ。同じ光景を明日も見てやるよ。
「さあ、最後の挑戦の始まりだ」
僕達は三台のクレーンに乗り込んだ。
『今回使用するワイヤーは特別に倍の太さだ』
トランシーバーからは親方の声。
『耐久時間は二時間ってところだろうな』
僕は思わず笑った。
ワイヤーが切れる訳がない。何故ならば、クレーンの力が不足しているからだ。二時間というのは恐らく六台のクレーンで引っ張ったときの場合で、今回はその半分の馬力しかない。
……でも、それでも。
「親方、生きて日本に帰りましょう」
『当たり前だ。バカ野郎。死ににいく軍人みたいなことを言うな』
絶対に諦めない。僕達は最後の最後まで、生きることを諦めない。
『始めるぞ、野郎共! 泣いても笑っても最後の挑戦だ』
僕はクレーンのエンジンをブルンと吹かし、レバーを握った。
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